第18章 そしてWCは伝説となる
許さない、確かに朱音は僕にそう言った。どうして、僕は朱音のためを想って言っただけなのに。
朱音と一緒にこの2人だけの空間に来たはいいものの、何を話せばいいか分からない。朱音を怒らせてしまった、頭の中はそれだけだった。
「『すまなかった/ごめん…え?』」
柄にもなく僕から謝ったと思えば、朱音の声と重なっていた。僕たちは顔を見合わせると互いに笑い合った。
「全く、僕たちの考えはやはりどこまでいっても同じらしいな」
『そうだね。改めてごめん、征ちゃん。征ちゃんはあたしの事を思って言ってくれただけなのに』
「僕の方こそ決めつけてしまって悪かった。ただ話してただけなんだろう」
あの時の朱音は楽しそうに話していた。ただ片岡のした事が許せなかった僕の決めつけによって生じた誤解だったのだ。それにあの約束は僕と朱音には近づくな。それなら朱音1人と話しても何の問題はないはずだ。
『心配してくれてありがとね、征ちゃん』
「君は僕の1番大切な人なんだ、それくらい当然だろう」
朱音はみるみる顔を赤くさせ、小さくバカと呟いた。僕はゆっくりと近付き、朱音の小さな手を握った。そのまま自分のポケットの中に入れておいたある物を取り出し、朱音の手にそれを包む。開けてごらんと言うと、朱音は不思議そうに手を開く。そこには1つのシルバーリングがあった。
『!?コレ…』
「本当はWCが終わってから渡そうと思ってたんだが…早く僕だけの朱音になってほしくてね。すこし早いけど交際の記念だ」
『征ちゃん…これ、日付未来になってるよ?それにこの日ってWCが終わる日だよね』
店に特別に用意させたもので、リングの内側には僕と朱音の名前と一緒に、WC最終日の日付を掘らせていた。
『あはっ!征ちゃんてばどれだけ自信満々なの』
「けど朱音も僕の事、好きなんだろう?なら自信だって沸くさ」
僕の言葉に朱音は再び笑った。そしてありがとうと言ってくれた。そして一緒に銀のチェーンを渡す。これを首にかけておくように、と。僕もバッグの中から同じリングを取り出し、同じように首にかける。そして朱音の首にかかっているリングにそっと口づけを落とした。