第18章 そしてWCは伝説となる
伊月先輩はテツ君のように今吉さんをバニシングドライブみたく抜いてみせた。今吉さんも周りも1歩も動けないどころか、何がおきたか分からない様子だった。
凜子「ミスディレクションオーバーフロー!?」
『そう。これはミスディレクションが切れて初めて使える大技。第3Qの頭から出ていたのはこのためだったの』
茉実「!もしかして黒子君は自らに視線を集めて…」
雅「えっ!茉実分かったの?」
『ミスディレクションが切れるという事は、正確に言えば相手の視線をテツ君から外せなくなるという事。言い換えればその逆の誘導、つまりテツ君自身に視線を集める事が出来る。それは極端に言えば今まで9人しかいなかったコート上に10人目が突然現れたようなモノ。その直後はテツ君自身が1番視線を誘導しやすい対象になる。凄く簡単に言えば、相手の視線を自分からではなく味方から外す誘導をして、自分以外の味方全員にバニシングドライブと同じ効果を与えるの』
宗助「勝つ事を捨てるってのは?」
『それはこの技のリスク。今のテツ君はタネをバラしながら手品をやっているようなものだから、この試合が終われば桐皇相手にミスディレクションは使えない。お互い同じ東京地区、この先何度も戦う事はある。いくら他の皆が成長してもテツ君抜きで勝てるほど甘い相手じゃない。それに下手すればこれはこの試合が終わるまで保たないかもしれない』
それでもここで負けるよりはマシです、とテツ君は言う。きっとテツ君はてっちゃんがこのWCまでという事を知っている。そして第3Q終了間際、ついに8点差まで追い上げた。だが桐皇は強い、この勢いのまま終わらせてくるはずがなかった。
今吉さんが3Pラインより遥か手前から撃ったボールは、ブザービーターと共に入った。元より今吉さんは3Pが得意なわけでもないしこの遠距離、それでも入れてくるのが今吉さんであり、これがIH準優勝の桐皇学園だった。
2分のインターバル中、あたし達は誰1人声を発する事無くベンチを見つめていた。何よりテツ君の消耗が尋常ではない。対象が多い分、オーバーフローは通常のミスディレクション異常に神経を使う。そしてもう1つはてっちゃんの怪我。相当の疲労が溜まっているはずだ。そして運命の第4Qがついに始まった。