第18章 そしてWCは伝説となる
「なんだよ、つれねーな。仲間外れにすんなよ」
降旗「火神!」
「ただいま。話は後で、とりあえず…あんたが赤司か。会えて嬉しいぜ」
「…真太郎。そのハサミ借りてもいいかな?」
「?何に使うのだよ?」
「髪がちょっとうっとうしくてね、ちょうど少し切りたいと思ってたんだ。まあその前に、火神君だよね?」
征ちゃんはそのハサミで大我君の頬を狙って振りかざした。大我君は反射的にかわし、刃を掠める程度で済んだ。いくら征ちゃんの眼の力によって動きが分かると言っても、あたしはヒヤヒヤしていた。
「火神君!」
「…へぇ。よく避けたね。今の身のこなしに免じて今回だけは許すよ。ただし次はない。僕が帰れと言ったら帰れ」
征ちゃんはハサミで自分の前髪をジョキジョキと切り出した。地面には征ちゃんの鮮やかな赤髪が広がっていた。
「この世は勝利が全てだ。勝者は全てが肯定され、敗者は全て否定される。僕は今まであらゆる事で負けた事がないし、この先も無い。全てに勝つ僕は全て正しい。僕に逆らう奴は親でも殺す。…じゃあそろそろ行くよ。今日の所は挨拶だけだ」
「はぁ?ふざけんなよ赤司。それだけのためにわざわざ呼んだのか?」
「いや…本当は確認するつもりだったけど、皆の顔を見て必要ないと分かった。全員あの時の近いは忘れてないようだからな。ならばいい、次は戦う時に会おう」
征ちゃんはゆっくりと歩き戻って来た。そしてあたしの元まで来ると、あたしの手を引いてどこかに向かった。それは人気のないさっきの場所。征ちゃんは先程自分で切った前髪を触る。どうやら納得がいってないみたいだった。幸いあたしはバッグを持ってきており、その中にはテーピングを切る時に使うハサミが入っていた。あたしはバッグの中からハサミを取り出すと征ちゃんに椅子に座るよう言った。
「朱音?」
『動かないでよ。取り返しのつかない事になっちゃうからね』
それ以降征ちゃんは黙ってしまった。あたし達がいるこの空間には、ハサミが髪を切る音しか響いていなかった。