第5章 帝光中にて
その内容は何故僕がここにいるのか、隣の女性は誰なんだというものばかりだった。君たちが彼女を知るには早すぎる。僕は気に留めることもなく視線も移動させないで真っ直ぐに歩く。彼女もそれに着いてくる。それは隣のクラスでも、それまた隣でも変わらなかった。そしてクラス棟の一階から二階へ続く踊り場で彼女は口を開いた。
『赤司君ってすごく人気者だね』
「そういうわけではないさ。ただ、僕のことは全員が知っているからだろう。それに彼らは僕ではなく、君に興味を示していたよ、若槻さん」
『それは部外者のあたしが何でここにいるかっていう興味でしょ。それより赤司君ってあのキセキの世代のキャプテンだったんだ』
突然出たキセキの世代という名前。何故。何故今ここで話題に上がるのか。答えは簡単だった。
「掲示板、か」
『うん。あたしだって名前くらいは知ってるよ。どんな人かは分からなかったけど、あたしと同世代に天才が5人もいる最強の世代なんでしょ』
「世間ではそう騒がれているね。だけど別に僕はそれほどまでにその名前に興味は無い。僕が望むのは勝利だけだ。きみなら分かってくれると思うのだけどな。昨年快進撃を繰り広げ、全中初優勝をこなした鈴城中のエース、そして今は2年で主将を任されている秀才、若槻朱音さん」
すると彼女は悲しそうに笑う。
『秀才だなんてとんでもないよ。やっぱり知ってたんだね。言ってくれればよかったのに。そしたらもっといろんなことを話せたのにさ』
「君とは対等な関係でいたいからね。黙っていたのは悪かったけど、今はまだバスケの話をするつもりはない。君のプレーを見てから話したいと思ってた」
彼女は今度は嬉しそうに笑う。
『そうだね。あたしも赤司君や他の人のプレー見てみたいな』
彼女は楽しみという言葉がぴったり当てはまるような表情をしている。同じ笑うという行為の中に、これほどまでに表情が変わる人を僕はまだ、彼女以外に見たことがない。
そして気が付いたら2年のクラス棟に来ていた。