第5章 帝光中にて
会話をしながら静かな廊下を歩く。彼女は僕の知らないことも知っている。久しぶりに真太郎以外にも高レベルでの会話を楽しむことが出来たと思う。
『…なんか、嬉しそうだね赤司君』
本当に彼女には驚かされてばかりだ。
「…そう見えたかい?なら、君はそれをどうしてだと思う?」
『そう来たか。理由は二つ。赤司君は頭がいい。けど周りは赤司君の考えについて来れない。だけど久しぶりにまともに話せる相手が出来た。同じ次元で考えることのできる相手が』
「ははっ、君は本当に僕の考えていることが分かるみたいだね。そしてそれは同時に君自身が君のことを頭がいいと思っていないと言えない台詞だね」
『それはそれはとんだご謙遜だよ。確かに少しくらい勉強は出来るって思ってても赤司君にはかなわないよ。それと二つ目の理由の方が大きいから。赤司君には分かる?』
はて、困った。まさか自分に誰かから、こんな悪戯っ子のような笑みでクイズを出されるとは思わなかった。そして困ったことに答えが見つからない。頭の中で出てくる答えは可能性の段階で、それを確定付けるあと一手が打てない。
「参った。僕には分からないみたいだ」
『じゃあ答え。それはあたしが嬉しいからだよ』
これは驚いた。驚きすぎて足が止まってしまった。そんな僕に気づき、彼女も足を止めた。けれど口は動く。
『赤司君と話していると、今まで無理に合理化していた自分の答えを正しいって言ってもらえるようで、何か安心する。何でだろうね、って思ったけど、それはあたしたちの考えが似てるからだって思った。だから嬉しいの』
彼女の言葉は僕の体に溶け込んでくるかのようだった。普段口を開けば相手から恐怖の念しか感じさせなかった僕の言葉。そんな言葉を彼女は綺麗に掬い取ってみせたのだ。
『赤司君?あ、ごめん急に変なこと言って』
迷惑だったよね、と寂しそうに笑った彼女。
「そんなことないさ。嬉しかったよ。僕も君と同じことを考えたことがあるからね」
すると彼女は良かった、と笑ってみせると歩き出した。それはもう本当に優雅に。
暫く一階の空き教室を見て歩く。割と綺麗で、どの教室も少し掃除すれば使えそうなものばかりだった。そして一年が授業をしているクラスを横切ると、さすがに動揺がおきた。