第17章 WC予選での波乱
皆の期待を背負い勇ましくコートに立ったテツ君が、何の考えも無しに出てくるなんて思えない。それは涼君もさつきも感じただろう。そして真ちゃんも。秀徳はかなりテツ君を警戒しているようだった。誠凛の顔に不安の色は見られず、OFのペースを落とす。切り札であるテツ君の新技を出すタイミングを計っているんだ。迂闊に攻め込めば良いというわけじゃない。文字通りの切り札を出すタイミングを失敗するわけにはいかなかった。そしてその時は来た。大我君がスクリーンで高尾君の動きを止め、テツ君が真ちゃんと向き合いボールを持った。
「黒子っちがキャッチ!?ボールを持った状態じゃミスディレクションは使えないはずじゃ…」
「私、まだ未完成の時に見せてもらったけど、テツ君はドライブをするの。しかもそのドライブは…消える」
さつきの言葉と同時にテツ君は真ちゃんを綺麗に抜いてみせた。練習の時から見ただけでは仕組みは全く分からなかった。けれど確かに今、紛れもないテツ君自身の力でキセキの世代である真ちゃんを抜いたのだ。そしてそのままてっちゃんにパスが通り得点は誠凛。テツ君の新ドライブによって焦りが生じたのか秀徳のリズムが乱れ、リングに弾かれたボールは伊月先輩の手に渡りもう1度テツ君へ。高尾君が止めに入るが、またもやドライブは成功。そしてテツ君得意のスティールから日向先輩の3Pが決まったと同時に第3Q終了を告げる合図が鳴る。
「これで同点…振り出しに戻ったッスね」
『そうだね。けど大我君の体力は少し心配かな。彼がこれくらいで終わるとは思ってないけど。それにテツ君のドライブ役割を果たしている』
「誠凛はいきなりラン&ガンね。でも確かに速いけど、このパターンは外から中に食い込むからバレバレなんじゃない?」
『だからテツ君なんだよ。テツ君のスタイルの真骨頂はパス。今までの高速パスワークにテツ君が入った事で変化がついた。パスパターンが突然切り替わる変幻自在型ラン&ガンスタイル。これが誠凛バスケの完成形だよ』
だけど少しも気が抜けない。そして真ちゃんの高弾道3Pが決まる。いくら体力アップしたと言ってもそろそろ落ちてもおかしくはない。真ちゃんともあろう人が自分の限界を把握していないわけがない。そしてその限界はとっくに来ているはずだった。真ちゃんは落ちる可能性のあるシュートは撃たない。けれど撃ち続けるという事は…