第15章 summer vacation
だけどおかしい。最寄駅に着いたはいいが、今進んでいる方向はあたしの家がある方向とは逆で、その上帝光中や鈴城中とも逆の方向だった。それでも征ちゃんが変な所に連れて行くはずがないため、あたしは黙って手を引かれて歩いた。そして着いた場所は大きな豪邸の一軒家。表札には赤司と書かれていた。そして征ちゃんは当然のように家の門を開ける。玄関に入ると立派で綺麗な和式の間があった。そして奥から和服に身を包んだ綺麗な人達がたくさん出てきた。
使用人「お帰りなさいませ、征十郎様」
「ただいま。茶と菓子を用意してくれ。大至急僕の部屋に運んでくれ。それ以降僕の部屋には近づくな」
使用人「かしこまりました」
ごゆっくりなさいませ、と綺麗に深くお辞儀をしてくれる人達。立派な通路を手を引かれながら歩き、これまた立派な征ちゃんの部屋の入る。するとすぐにお茶と和菓子を持った使用人さんがやって来た。そしてすぐに追い返す。
「座るといい。歩いてばかりで疲れただろう」
『あ、うん…』
「どうしたんだ?」
『いや、征ちゃんってお金持ちだったんだなって』
「僕はあまりそう思った事はないよ。ほら、お茶が冷める」
征ちゃんは自分のお茶を飲む。あたしも座りお茶を戴いた。濃さも厚さも調度良い、美味しいお茶だった。視線を感じそれを追うと、征ちゃんがあたしを見ていた。どうしたの?と聞いてもただ見てるだけだよとしか答えてくれない。照れてしまうのを隠すように、あたしは鞄の中にあるある物を取り出し、征ちゃんに渡した。
「…これを僕にくれるのか?」
『うん。大したものじゃないかもしれないけど…』
「朱音からのプレゼントなら何でも嬉しいに決まってる。開けてもいいか?」
『どうぞ…』
征ちゃんは箱に入ったプレゼント、この前買ったブレスレットを丁寧に開けていく。そして取り出した瞬間、征ちゃんの眼が大きく見開かれた。