第15章 summer vacation
まだ時間には10分余裕がある。けれど征ちゃんはもう校門に立っていた。
『遅れてごめん!』
「きにするな。まだ時間になってい…ない…」
『?征ちゃん?』
征ちゃんはあたしを見るなり言葉を濁すように黙ってしまった。もしかしてあたしの格好、変だったのかな…
『変、かな…変だよね』
「そうじゃない。あまりにも綺麗で驚いただけだ。とてもよく似合っている」
征ちゃんの言葉に顔が熱くなる。征ちゃんの格好はスラッとした体格に良く似合うチノパンに腕まくりをしたグレーのシャツにループタイを合わせたモノだった。シンプルながらにとても良く似合っている。素直にカッコいいよと伝えると、嬉しそうにありがとうと言ってくれた。いつまでもここにいるわけにはいかないため、歩き出したあたしの手を自然と征ちゃんが掴む。
「今日はこの手を離さないよ。こんなに魅力的な朱音に、世の中の男性は黙っちゃいないからね。朱音に悪い虫が付かないためだよ」
『…うん』
もっと違う言い方があったはずなのに、あたしはうんとしか言えなかった。心臓が煩い。あたしは征ちゃんの事が…好きなのかもしれない。もちろん恋愛的な意味で。だけどきっと征ちゃんはあたしの気持ちは迷惑なのだろう。電車が揺れる度に触れ合う肩に、今だってドキドキして破裂してしまいそうなのに比べ、征ちゃんはいつもと何一つ変わらない。意識しているのはあたしだけなんだ。そう思うと胸がチクリと痛んだ。
街に着くと征ちゃんにエスコートされながらゆっくりと歩く。進む度に視線が集まっていくのが分かる。征ちゃんはカッコいい。そんな征ちゃんがあたしなんかと歩いているのが不思議でたまらないんだろう。そんな中着いたのは水族館だった。
『水族館…』
「…もしかして嫌だったか?」
『ううん、大好きだよ!ただ久しぶりに来たから懐かしくて』
「そうか、なら良かった。それじゃぁ行こうか」
征ちゃんは1度強くあたしの手を握ると、入場券を2枚購入した。お金は出すよと言ったのに、その願いは聞いてもらえなかった。今日は僕に出させてくれ、と。ありがとうとお礼を言い、水族館に足を踏み入れる。すぐに巨大な水槽があたし達を出迎えた。
『綺麗…』
「フッ…奥にはまだたくさんいる。ゆっくり見て歩こう」
『うん!』