第15章 summer vacation
氷室「びしょびしょだな。朱音ちゃん、これ使ってないタオルと俺の着替え。風邪引くといけないから着替えて。少し大きいと思うけど。敦も」
『ありがとうございます!けど辰也さんの分はあるんですか?』
氷室「心配しないで。俺の分はここにあるよ。ちょうど敦の家に世話になる予定だったからね」
もう1度お礼を言い、トイレを使って辰也さんに借りたタオルで体と髪を拭き、辰也さんのTシャツに腕を通した。今まで嗅いだことのない辰也さんの匂いは、あたしの心を落ち着かせてくれた。着替え終わりトイレから出ると、同じように着替え終わったあっ君と辰也さんがいた。
「風邪引くといけないから、今日はもう帰ろうね~。せっかく会えたのに…今度はWCだね~」
『そうだね。美味しいケーキのお店に連れてってくれてありがとう。辰也さんもタオルとTシャツありがとうございます。WCの時に返しますね』
氷室「ありがとう。家まで送るよ。女の子が濡れたままじゃ危ないからね。近くの店で傘を買おうか」
それから3人でいろいろな話をして帰った。家まで送ってもらい、お風呂に入る。そして昔を思い出した。バスケが好きではないと言っていたあっ君。始めたきっかけは月並みに人より体が大きかったから。小学校で初めて以来ずっとCをやってきたらしいあっ君。そしてあっ君は紛れもなく天才だった。好きでなくてもやる気はなくても出来てしまう。そうしてバスケを続けていくうちに、あっ君はバスケに興味がないままCとして圧倒的な選手になってしまった。だから以前言っていた。才能があれば好きでいる必要はないし、逆に好きでも才能がない奴は見ててイライラする、と。そんな考えだからこをテツ君とは選手として気が合わなかった。
『…けど、こればっかりはあたしには何も出来ない、よね…』
何かきっかけさえあれば。ずっとそう思ってきた。けどそのきっかけというものはそう簡単には見つからない。あたしは溜息をつくと、お風呂を出た。