第15章 summer vacation
それから辰也さんと火神君の勝負。辰也さんの動きはとても滑らかで、シュートモーションに入ってから実際に打つまでスローモーションのように見えた。それほど鮮やかだった。静まり返る会場にてっちゃんの声が響く。リスタートを忘れていた降旗君に注意し、テツ君のイグナイトによって火神君にボールが渡る。そして今度は火神君対あっ君。
「勝負だ、紫原!」
「暑っ苦しいなーもう。そんなウキウキ熱血しないでよ。ヒネリつぶしたくなる」
まただ。あっ君に感じる2度目の悪寒。そしてまた同調するかのように雨が降り出した。あたしの横を何人もの客が雨宿りをするためにすり抜けていく。けれどあたしは動かなかった。自分の体が濡れていくのも気にせず。
氷室「…フゥ。参ったな、残念だけど勝負はお預けだな」
「待てよタツヤ!」
氷室「俺も続けたいのは山々だが、この雨だと直に中止のアナウンスが出るだろう。それに滑る地面でバスケは危険だ。特に、先輩が古傷を再び痛めたら事だろう?」
辰也さんはてっちゃんを見る。てっちゃんが怪我していた事は知らないはずだ。それを簡単に見破るなんて、辰也さんは相当出来る。
氷室「とは言えせっかくの再開だ。これで終わりじゃ味気ない。土産を置いて行くよ、タイガの知らない技だ。好きに守っていいぞ」
辰也さんはそう言うとモーションに入った。ただのジャンプシュートのように見えたシュートは、ブロックに飛んだ火神君の手をすり抜け、ゴールを揺らした。
木吉「次会うとしたら冬だな。次はお互いユニフォームを着てやろうぜ」
「こりないなー。前あんだけやったのに…じゃーねー黒ちん」
「紫原君…今でもやっぱりバスケはつまらないですか?」
「それ以上その話するなら、ヒネリつぶすよ。黒ちんでも。楽しいとか面白いとか、そーゆー感覚分からない。けど勝負に勝つのは好きだし、向いてるからやってるだけじゃダメなの?ま、反論あるなら聞くよ。ウィンターカップで。行こ、朱音ちん」
あっ君があたしの手を掴んで歩き出す。今度は辰也さんも一緒に。テツ君達に一礼をして歩き出そうとした時、テツ君に呼ばれた。そして皆から一言。
「「「「「優勝おめでとう!」」」」」
あたしはありがとうと言い、ニッコリと笑った。そしてあっ君達と歩いていると、雨宿りのために近くの公園に寄り、トイレの前に行った。