第14章 高校バスケの頂点
「それにしても、一人部屋なんて羨ましいよ」
『人数少ないからね。征ちゃんは2人部屋なの?』
聞けなかった。僕について聞くという事は告白をしているようなモノだ。僕は今の関係を壊したくはない。だけど彼女と一緒の空間にいるだけで、その意思は揺れ動く。テーブルと一緒に備え付けてある椅子に座る朱音。その少し離れた丸椅子に座っている僕。この距離さえもどかしくなり、朱音の手を引いてベッドに座る。
「僕はやはり朱音の隣で話したい。いいね」
『クスっ…征ちゃんって、子供みたいだね』
朱音はクスクスと笑う。もちろん子ども扱いをされて黙っていない僕は反論する。
「僕が子供だったら大輝や涼太はどうなるんだ」
『あははっ!征ちゃん面白すぎ!確かに大ちゃんと涼君は赤ちゃんになっちゃうね!あ、それを言うならあっ君もか。お父さんがテツ君でお母さんは…あはっ、真ちゃんかな!』
朱音が考えたキセキの世代による家族構成。想像しただけでつられて僕も笑ってしまった。特に真太郎の部分で。違和感が全くないから余計に。それからもいろいろな話をする。くだらない話から真面目な話まで。ふと時計を見ると2時間が過ぎていた。それほどあっという間だった。そろそろ帰らなければ明日に響く。
「そろそろ僕は帰るよ」
『もうこんな時間か。今日はありがとう、征ちゃん。いろいろ話せて楽しかったよ』
「朱音、前にも電話で言っただろう。誘ったのは僕だ。君が礼を言う必要はない」
『それでもあたしは征ちゃんのおかげで楽しい時間を過ごせたからありがとうを言うの。これはあたしの気持ちだよ』
「…やはり朱音は面白い。それなら受け取っておくよ。おやすみ、朱音。また明日」
『おやすみ征ちゃん』
朱音の部屋から出て、自分の部屋に戻る。心が癒されたようだった。何より、ぐっすり眠れそうだ。部屋に入ると玲央が何か言ってきたが、答える気分にはなれなかった。瞼が重い。最近眠れていなかったな、と思う頃には僕の意識は消えかけていた。
玲央「効果あったのね。彼女は征ちゃんにとって一番の薬みたい」
玲央の言葉が最後に聞こえた。そうか、僕は玲央に心配かけてしまうほどに不安定だったのか。布団が体の上にかけられるのを最後の感触とし、僕は深い深い眠りについた。