第14章 高校バスケの頂点
部屋のインターフォンを押す。何回も部屋番号を確認したから間違いはない。数秒経ってから足音が聞こえた。そして扉の前で止まると、鍵を開ける音が聞こえた。そして朱音の顔が覗く。
『あ、征ちゃん。どうぞ、上がって』
失礼するよ、と言って部屋に入る。備え付けのテーブルには、先ほどまで書き込んでいただろうノートとシャーペンが転がっていた。
「すまない、邪魔したか?」
『ううん、大丈夫だよ。もうほとんど終わってるから』
けど先に片付けさせてもらうね、といって彼女は机に向かった。風呂あがりであろう朱音の髪はまだ少し濡れていた。自然にその栗色の髪に手が伸びる。
『征ちゃん!?』
「髪、濡れているぞ。朱音がそれをまとめている間に、僕が乾かしておこう」
朱音の返事も待たず、ドライヤーへと手を伸ばす。そしてスイッチを入れ風が温まったのを確認すると、熱くならないように髪から遠ざけてドライヤーを当てた。部屋の中をドライヤーの起動音が支配する。髪が乾いていくにつれてシャンプーのいい香りが僕の鼻をくすぐる。時間をかけてゆっくりと髪を乾かす。熱を当てすぎて髪を痛めないように。以前涼太にしつこく聞かされていた知識が、まさか役に立つとは思っていなかった。そして完璧に乾いた髪を見て、僕はスイッチを切った。
『ありがとう、征ちゃん』
「どういたしまして。終わったのか?」
『うん、お陰様で』
朱音は嬉しそうにノートを鞄の中にしまった。
『征ちゃんは明日試合無いの?』
「あぁ。朱音もだろう?」
『うん!早くIHの舞台に立ちたいのに~。あ、メールだ。開くね?…涼君からだ…あ、涼君1回戦勝ったみたいだよ』
断りを入れてからメールを見た朱音。そのさりげない気遣いが彼女の良さを引き出させていた。嬉しそうに画面上の文を眼で追う。僕からのメールも同じように見てくれているのだろうか。僕は嫉妬していた。今ここにいない涼太に。そんな僕に気付くことのない朱音は、読み終わったと同時に携帯を机の上に置いた。
「返さないのか?」
『うん。寝る前に返すよ。今は征ちゃんがせっかく来てくれたんだから』
その一言が僕の気持ちを高らめるなんて、きっと朱音は微塵も思っていないだろう。知りたい、彼女にとって僕は何なのかを。