第4章 部内騒動
長くなりそうだったため、全員を床に座らせる。もちろん柔軟はするようにと伝えて。数分の間、全員が黙って黙々と柔軟をこなす。一通り全員の顔を見渡す。全員が浮かない顔をしているが、誰一人眼は死んでいない。話すなら今だ。
『それで、今日はどうした?部員、入部希望者誰でもいいからあたしに説明して』
当分は誰も手を挙げないだろうと思っていたけど、案外すんなりと、はい。という言葉が体育館に響いた。汐音先輩だ。汐音、と名前を呼ぶと汐音先輩はゆっくり立ち上がった。
汐音「主将。いや、監督。この子達と試合させてください」
全員が全員、汐音先輩を見る。
『…どうして?』
汐音「彼女たちは、全員が監督に憧れてこの学校に入ったと言いました。そして、私たちはそのおこぼれだ、とも」
『…そうなのか?』
一年生は気まずいのか、あたしの顔を見ないで答える。
汐音「この学校は進学校です。いくら中学校だからと言って努力も無しに入れる学校ではありません」
それは監督だって分かっていますよね。と汐音先輩の言葉が体育館とあたしの頭に響く。確かに鈴城は小学校の授業だけでは習わない難しい問題が入試問題だった。
汐音「だから私は、そこまでして監督と同じコートに立ちたいが為にここまで頑張った新入生を否定する気はありません。いかなる理由でもそれは個人の目標ですから」
汐音先輩の言葉に、俯いていた1年の顔が徐々に上がっていく。汐音先輩は本当にかっこいい。ずっと、あたしの前を走っている。走ってくれている。分かってくれているのだ。この問題の根源は結局あたし。あたしが何も言えないのも、何かを言う資格がないって思っていることも、全て分かってくれている。
汐音「ですがそれとこれとは別です。監督と一緒に頑張ってきたこの1年間を、お飾りなんて言葉で片付けられて黙っていることは出来ません。それを見せつけてやりたいんです。監督と一緒に頑張ってきた成果を」
お願いしますと頭を下げた汐音先輩に続き、茉実や優希、凜子、捺美、雅、藍、香代先輩…今まで一緒に頑張ってきた彼女たちがあたしに頭を下げてくれている。
『お前たちの意見は分かった。もういい、頭を挙げてくれ。次は新入生の意見が聞きたい。誰か、自分の気持ちを伝えてはくれないか』