第14章 高校バスケの頂点
食堂にはまだ誰もいなかった。あたしたちは食堂の解放時間すぐの7時を集合時間としていた。まだ体育館では試合を行っており、観戦等でまだ体育館にいるのだろう。誠凛高校様と書かれた指定席に座ると、すぐに別の足音が聞こえた。藍かな、と思いながら入口の方を見る。けど現れたのは白いジャージに身を包んだ、真っ赤な髪だった。
「やぁ。こればかりは僕も驚いたよ、朱音。入口で確認した時は2度も見てしまった」
『征ちゃん…もしかして』
「僕は京都の洛山高校だ。」
征ちゃんは自分の席に座る。誠凛と洛山のテーブルはすぐ隣。その中でも一番近い2席の洛山側に座った征ちゃんは、誠凛側の席にあたしを座らせるように促す。そして席を移動し久しぶりに香った征ちゃんの匂い。石鹸のような良い香り。
「久しぶりだな、こうして朱音と隣で話すのは」
『…そうだね』
「…僕はまどろっこしいのが嫌いだ。だから単刀直入に聞く。どうして僕の顔を見ないんだ」
そう、あたしは今日1度もまともに征ちゃんの顔を見ていない。と言うより、見れないでいた。
『そう、かな?気のせいだよ』
「僕に嘘が通用すると思ったか?それとも…僕のことが嫌いになったのか」
『違う!』
あたしは顔を上げた。久しぶりに真っ直ぐ見た征ちゃんの少し大人びた顔は、悲しそうだった。
『違うの…あたしにも分からないの。けど征ちゃんのこと嫌いになったりなんかならないよ!絶対に!』
「…そうか、それなら良かった」
征ちゃんは本当に安心したかのように一息をついた。
『それよりさ!京都って、綾と一緒のとこだよね?』
「…今彼女の名前を出さないでくれ。せっかくの良い気分が台無しだ」
喧嘩でもしたのかなと思っていると、ふと左手に温かみを感じた。征ちゃんの手があたしの手を握っていた。
『せせせ征ちゃん!?ダメだよ!人が来たら…』
「久しぶりに会えたんだ。君の体温を直接肌で感じても問題はないだろう。心配ない、人が来たらちゃんと離すさ」
『…征ちゃん、結構危ない台詞言うんだね』
「朱音といる時だけだよ」
どういう意味だろうか。考えようとしたけど、征ちゃんの手から伝わる征ちゃんの体温がそれを阻止する。次にやって来た藍の登場まで約1分弱という短い時間は、何倍も長く感じられた。と同時に離された左手は、少し寂しかった。