第13章 それぞれの思い
そして1週間後。部活も終わり鍵をしめようと体育館に向かうと、誰もいないはずの体育館からボールをつく音が聞こえた。テツ君だった。あたしは声をかけられないでいた。するとあたしの肩に、大きな手が置かれた。あたしはこの人を知っている。と同時に、テツ君のシュートが外れた。
?「わははは!聞いてた通りっつーか。本当パス以外はからっきしなんだな。リコから試合のビデオを見せてもらったよ。いんじゃね?俺は好きだよ、君のバスケ。間違っちゃいねー。ただまだ未熟。そんだけじゃん?」
その男はテツ君にボールを渡す。どちら様ですか?というテツ君の丁寧な質問にその男、木吉さんは明るく自己紹介をする。
木吉「このー木なんの木気になる木~♪の木に、大吉の吉で木吉だ」
「あ、はい」
木吉「んで、鉄アレイの鉄に平社員の平で、鉄平だ」
「あ、はい」
…おいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!何やってんのあの人ぉぉぉぉぉ!?あたしは心の中で全力でツッコんだ。木吉鉄平。以前お兄ちゃんは相田ジムに勤務する前に働いてたジムで、木吉さんのトレーナーをやっていた。そして一度だけ家に連れてきたことがあった。当時あたしは中学1年になったばかりで、木吉さんのことは知らなかった。けれども同じバスケを愛する者同士、打ち解けるのに時間はかからなかった。ここまで変人とは思わなかったけど。
どうやら木吉先輩は入院していたらしい。それが来週で退院するから学校に挨拶に来たとのことだった。そこでテツ君に出会った。
木吉「けど期待もしてる。君は面白い。…………君ほど極端なスペシャリストは見たことがない。あそこまで徹底して1つのことだけ極めたのは驚異的だ。けど…そこが限界って、自分で決めつけてねぇか?」
木吉先輩の放ったシュートは入らなった。少し悔しそうに木吉先輩は言葉を繋ぐ。
木吉「そんだけ自分を客観的に見て、割り切ってプレイしているのは大したモンだよ。けど割り切りすぎかもよ?俺らまだ高校生だぜ?もっと自分の可能性を信じてもーんじゃねーの」
木吉先輩はそのまま自身の買った飴を踏み、粉々になった飴を大事そうに抱えて帰っていった。すぐに追いかけたかったが鍵を閉めなければならないので偶然今来たことを装って、テツ君を返した。