第12章 IH予選開始!緑と青と…
青峰と桃井からの電話を切った俺は、全身にあたる雨粒を肌で感じていた。俺は負けたのだ。
『…風邪引いちゃうよ』
俺にとって特別な声に振り向けば、そこに朱音はいた。手にしていた傘を俺に向けて差し出してくるが、動かなかった。
「…黒子に…火神に負けたのだよ。俺は今まで練習を欠かしたことは無い。おは朝の占いだって見逃したことは無いし、ラッキーアイテムだって肌身離さず持ち歩いた。人事は尽くしていたはずなのに、負けたのだよ。俺に何が足りなかったのだ」
『真ちゃんが努力をしてきたことは皆分かってるよ。秀徳の皆さんも、あたしも。実力だけで行けば秀徳の方が強い。それでも負けた。きっとその敗因は想いの強さだったんじゃない?』
「想いの強さ…?」
『真ちゃんが勝ちたいって思ってたのは知ってるよ。けど心のどこかでさ、負けることはあり得ないって思ってたんじゃない?テツ君たちにはそれが無かった。死ぬ物狂いで戦って、勝利を掴んだ。その差だったってことだよ』
朱音はこの曇天の空を見上げる。雨が数粒顔にかかるのも気にせず、ひたすら真っ直ぐに。確かに俺は勝つことが当たり前だった。だから勝利の喜びを忘れていたのかもしれない。
「確かにそうかもしれないのだよ。けど次は無い。そうあいつらに伝えておいてくれ」
『ふふっ…うん、分かった』
「それにしても、この間はあまり話せなくて悪かったのだよ。奴に見つかったらいろいろ面倒なことになるのでな」
『奴?』
俺は奴…高尾のことを思い出して苦笑してみせた。やけに俺に関わってくるあいつに知れれば、反応は目に見えていた。
「礼を言う、朱音。どうやら俺はもう一段回強くなれそうなのだよ」
『お役に立てたなら光栄です。それに、真ちゃんなら一段なんかじゃなくて、もっと上に行けるよ。チームの皆で頑張ってね』
「…やはり俺達のバスケを認めてはくれないか」
朱音は悲しそうに笑うと、もう一度俺を傘に入れて歩き出した。玄関まで迎えに来ていた神守たちと合流し、朱音とは別れた。
高尾「あー、真ちゃんどこ言ってたんだよ!もう先輩達帰っちまったからよ、どっかで飯食べて帰ろうぜ!」
いつもの様子と変わらない高尾。けどその目には悔しさと次への新しい光が宿っていた。
「…フン、もちろん高尾の奢りでな」