第3章 接触
そろそろ帰るという彼女の言葉に少し残念な気持ちを覚えていた。けれどこれから僕は1年間、彼女に会えるという特権を得たことも実感した。
『それじゃあ、また』
「ああ、今度はもっといろいろな話がしたい。君と話すことは僕にとっても有益だったみたいだ」
『だめだよ、赤司君。有益無益は二の次だよ。それに、そんなんじゃ女の子は寄ってこないよ?せっかくかっこいいし、優しいんだから』
「-っ!…分かった、気を付けることにするよ」
藍「朱音!もう帰ろう!早く!」
『あ、うん。ちょっと長引いちゃったか。それじゃあまた次回に』
「ああ」
彼女の姿が見えなくなるまで見送る。谷山が名前を呼んでくるが聞こえないふりをする。今は彼女の余韻に浸っているところだ。誰にも邪魔されたくはない。谷山たちもそれを分かったのか、失礼しますとだけ告げ、その場を後にした。
「…はぁ。出で来い。そこにいるのは分かっている。僕に隠し事は通用しない」
木の陰から帰ったはずの立花が出てきた。
藍「さすが、帝光中バスケ部2年にして主将、キセキの世代にてPGを務め、天帝の眼(エンペラーアイ)を持つ男、赤司征十郎さん」
「…へェ。やはり僕のことを知っていたのか。一体君は何者だ?と言ってもそこまで興味はないが」
藍「…本当は名乗りたくもないけど、朱音のためです。鈴城中女子マネージャーです」
「君がそうか。確か彼女のインタビューに敏腕マネージャーのおかげと書いてあったな。そうは見えないが」
藍「やはり貴方が朱音のことを知らないわけがないですよね。何が目的ですか?」
「そう言うな。僕はただ純粋に彼女に興味を持っただけだよ。だけど彼女に惹かれたのも事実だ。残念ながらこれがまだ何という気持ちかは分からないが」
けど僕に分からないモノは何もない。そして手に入らないモノもね、と伝えれば、今までどこか怯えたような立花がフッと笑った。
藍「朱音がそう簡単に手に入る女に見えますか?それを聞いて安心しました。まだ私たちだけで守れそうです。では」
と言い切って帰った。立花の言葉にムッときたものの、やはり彼女に会えたことは僕の人生の中でもかなり大きいモノだった。立花の背中が消えるのを見ないで、僕は体育館へと向かった。