第12章 IH予選開始!緑と青と…
数回のコール音の後に、やぁと久しぶりに聞く声が耳に響いた。
『もしもし、征ちゃん?ごめんね、電話気が付かなかった』
電話の相手は征ちゃんだった。メールはたまにやり取りをしていたけど、電話は中学を卒業してから初めてだったりする。
―「気にしないでくれ。電話を掛けたのは僕だからな。今大丈夫か?」
『大丈夫だよ。どうしたの?』
―「大したことではないが、僕はついさっきIHの出場権を獲得した。朱音に一番に報告したくてね」
『わ!凄い!おめでとう!』
征ちゃんは当たり前のことのように淡々と告げた。征ちゃんは自分が負けるなんて思っていないだろう。それ故の言葉だった。
―「朱音はどうだ?」
『あたしの所も順調だよ。再来週決勝リーグなんだ』
―「…すると、朱音の高校は東京か」
『あー、征ちゃんそれ言うの無しだよー。何のために隠してたと思ってんの?』
―「すまない。どうしても気になってね。だがそれもすぐに分かるさ。IHの舞台でね」
征ちゃんの言葉には、あたしが負けるわけがないという意味が込められていた。そして最高の励ましの言葉だ。
―「それより周りが騒がしいようだが、もしや今試合中か?」
『あたしの試合じゃないよ。東京ってばれちゃったから言うけど、もうすぐテツ君と真ちゃんの試合が始まるの。それを見に来てるんだよ。あ、涼君もいる!』
―「真太郎にテツヤか…面白い試合になりそうだな。それにしても涼太は神奈川だろう。あいつは暇なのか、しょうがない」
征ちゃんが電話の向こうで盛大に溜息を付いたので苦笑した。
―「そろそろ時間か。すまない、これから帰ってミーティングがあるんだ」
『あ、うん!わざわざ報告ありがとうね!』
―「朱音、勘違いするな。僕が朱音に伝えたかっただけなんだから、君が礼を言う筋合いはないよ。それじゃあ良い報告を待っているよ。また連絡する」
征ちゃんとの電話を切り、近くにあった椅子に座った。
『どうしたんだろ、あたし…』
昔から征ちゃんと電話はしていたのに。久しぶりで緊張したのかな…そう思えるほどにあたしの胸はドキドキしていた。中学時代最後に会った、あの抱きしめられた日のように。不意に綾の顔が浮かんだ。どうして綾が出てきたのかは分からない。けど、少しだけチクリと胸が痛んだ気がした。