第11章 海常高校のモデル
「…そういうことか」
真ちゃんの言葉と同時に火神君が飛ぶ。これはアリウープだ。けどそれにはきちんと涼君が反応していた。だけど一緒に飛んだはずの涼君の方が先に落ちていく。隣にいる真ちゃんが面白そうに火神君を捉え、中指で眼鏡のブリッジを持ち上げる。
「てめーのお返しはもういんねーよ!なぜなら…これで終わりだからな!」
火神君はそのままブザービーターでダンクを決めた。歓喜に包まれる誠凛。悔しそうに下を向く海常。そして、放心状態の涼君。涼君の眼からは、次第に涙が溢れだした。
優希「あーあ、黄瀬君泣いてるよ…モデルなのに」
藍「あ、そう言えば黄瀬君ってモデルだったね。いつも、ああだったから忘れてた」
あたしたちは中学時代に犬のように尻尾を振っていた涼君しか知らないため、苦笑するしかなかった。
「っのボケ!つーか今まで負けたことねーって方がナメてんだよ!シバくぞ!そのスッカスカの辞書にちゃんとリベンジって単語追加しとけ!」
笠松先輩の言葉にハッとなる。あたしは、今まで負けたことがない。バスケでも、勉強でも。そして征ちゃんを思い出す。彼もあたしと同じなのだ。
「朱音。何を思っているか知らんが、必ずしも負けることが良いとは思えないのだよ。それに、何が正しいとも分からん。朱音は朱音の思うとおりに進めばいいのだよ」
『真ちゃん…ありがとう』
「礼には及ばないのだよ。そろそろ俺は帰る。またな、朱音」
真ちゃんは背を向けて帰っていった。あたしは涼君に再び目を向けた。涼君の両手の拳は、硬く握られていた。支度が済んだ誠凛の皆さんの元へ行く。
リコ「皆見に来てくれたのね!どうだった?皆の試合は」
『そうですね。課題はたくさん見つかったと思いますけど、内容的には十分でした』
笠松「あの…あなたたちは…」
『初めまして。海常の笠松さんですよね』
笠松「どうして俺の名前を…」
『何言ってるんですか、全国でも屈指のPGじゃないですか。申し遅れました、あたしたちは誠凛高校女子バスケットボール部です。そしてあたしが主将でPGの若槻朱音です』
よろしくお願いしますねというと、笠松さんは顔を真っ赤にしながらも握手してくれた。不思議に思っていると、笠松さんは女子と話すのが苦手だから、と誰かが教えてくれた。