第10章 入学式、そして始動…!
帰り道。マジバの椅子に座ってシェイクのようなものを飲んでいるテツ君を見かけた。そして、レジに並ぶ火神君も。あたしは茉実たちに先に帰っているように告げ、マジバの自動ドアを潜った。ドリンクとポテトを頼むと、既に二人が座っている席に向かう。
『や、テツ君に火神君。同席してもいいかな』
「若槻!?別にいいけどよ…」
「僕も構いません」
断りを入れてから席に座ると、火神君はトレイにあった
大量のバーガーをテツ君に一つ渡した。これ一つ分くらいは認めてやる、と。きっと彼なりの照れ隠しなんだろう。少しびっくりした後、テツ君は嬉しそうにお礼を言った。そして3人で今日の試合についてだったり、クラスについて話をする。あんなに大量にあったバーガーは、あたしとテツ君がそれぞれポテトとシェイクを食べ終わるよりも早く火神君の胃に吸収されていた。そして頃合いを見てマジバを後にする。
「キセキの世代ってのはどんくらい強ーんだよ。俺が今やったらどうなる?」
「『瞬殺され(るね)(ます)』」
「もっと違う言い方はねーのかよ…てかハモるな」
「ただでさえ天才の5人が、今年それぞれ違う強豪校に進学しました。まず間違いなくその中のどこかが頂点に立ちます」
「ハッハハハ…いいね、火ィ着くぜそーゆーの。…決めた!そいつら全員ぶっ倒して日本一になってやる」
火神君の眼はギラギラしていた。一番最初に会った、まだ勝つことに喜びを感じ、そのために燃えていたキセキの世代の彼らのように。だけど…
『無理だと思うよ、少なくとも火神君だけでなら』
「うおい!…て、どういうことだ?」
「…潜在能力だけなら分かりません。でも今の完成度では彼らの足元にも及ばない。朱音さんの言う通り、一人では無理です。…僕も決めました。僕は影です。影は光が強いほど濃くなり、光の白さを際立たせる。光の影として、僕も君を日本一にする」
中学時代、テツ君を最後に見たのは3年の全中だった。今思えば、その時からテツ君の眼は曇がかっていた。けどその眼に今、さらなる光が舞い込んだと思った。テツ君が大好きなバスケを楽しそうに出来るのなら、あたしは全力で応援したい。当時、大ちゃんという絶対的な光がいた時に比べ、今の火神君の光は儚い。それでもテツ君の眼に狂いはない。きっとすぐにそれは証明される。その日を楽しみに。