第9章 あっという間に…
「それじゃあ、君が僕のことを避けていた話から聞かせてもらおうか」
生徒会室に着くとすぐに征ちゃんは確信をついてきた。元より最初から話すつもりで来ていたから、一息だけ吐くとゆっくりと話し始めた。
『…征ちゃんのこと、好きだっていう人がいてね、その子に応援してって頼まれたの。それなのにあたしと征ちゃんが連絡をとるなんて可笑しいでしょ?だから…』
「…片岡のことか」
征ちゃんは溜息と同時に綾の名前を出した。どうして、と尋ねれば本人から告白まがいを受けた、と教えてくれた。
『あたしは恋をしたことがないからさ、人を好きになるとどんな気持ちになるか分からないんだ。征ちゃんは…分かる?』
「そうだな…分かる、かな。それに片岡の気持ちもね」
『綾の…気持ち?』
「自分の好きな人を誰にも渡したくないって気持ち。だからと言って片岡のやることに賛同は出来ない。僕なら正々堂々と好きな子を相手に立ち向かうし、何よりその子の気持ちを一番に考えるよ」
征ちゃんはこれ以上ないくらいの優しい表情をして、真っ直ぐにあたしを見てくれた。
「だから、朱音はどうしたいんだ?」
『あ、たし…?』
「片岡が僕のことを好きだと言った。そして朱音に応援してくれとも言った。朱音がそれをどう受け取るかなんて僕には分からないし決められもしない。だから、朱音。君がどうしたいかを教えてほしい」
征ちゃんとどうしたいか…そんなの最初から決まっている。
『あたしは…征ちゃんとは対等でいたいよ。共感したり、意見出し合ったり、くだらないことで笑ったり…今まで通り征ちゃんと…』
あたしは最後まで言葉を発せられなかった。いつも大きい人たちに囲まれていたせいか、あまり大きく見えなかった征ちゃんの胸の中にあたしの体はスッポリと収まってしまった。
『せせせせせ征ちゃん!?////』
「すまない。僕はこれでも焦っていたんだ。朱音に嫌われてしまったんじゃないか、って思って。だから、安心してしまったみたいだ」
だからもう少しこのままでいさせてくれ、と言った征ちゃんの心臓はいつもより早く動いていた気がした。そして、あたしの心臓も。