第9章 あっという間に…
「…事実だが、そこまで否定しなくてもいいじゃないか。僕だって傷つくよ」
『…ごめんなさい。さ、次の質問をどうぞ』
征ちゃんはあたしの答えに納得がいかないようだったが、記者さんの質問が来ると、しっかりと答えていた。
記者「最後の全中ですね。どういうゲームにしたいですか?赤司君からお願いします」
「僕たちは僕たちのバスケをするだけだ。それ以上でも以下でもない。全員が全員、自分のプレイを行えば負ける要素はない」
記者「さ、さすが帝光の主将って感じですね…」
征ちゃんは変わってしまった。いや、もともと持っていた理念が浮き彫りになったのだ。絶対勝利という理念が。藍に頼んで帝光の試合を録画してもらった。そこに映っていたのは、個人技ばかりが目立ち、チームというものが存在しないバスケ。あたしが最も苦手とするバスケだった。
記者「では若槻さんはいかがですか?」
『あたしたちは…今まで通りのプレイをするだけです。一人一人が役目をもち、チームメイトを助ける。帝光の考えを否定するわけではありませんが、あたしは鈴城中全員で3連覇を成し遂げたいです』
記者「おぉ!同じ3連覇を目指す強豪校でもこんなにも意見が異なるものですね!では次ですが…」
隣の征ちゃんから物凄い視線を感じる。引き込まれるように征ちゃんの方を向くと、いつもの優しそうな征ちゃんの表情があった。そして小さな声で一言。
「やはり君は面白いよ、朱音」
征ちゃんの真っ直ぐな瞳と、真っ直ぐな言葉に照れてしまった。赤くなる顔を見られないように慌てて下を向く。征ちゃんは面白そうにクスクスと笑う。そしてレギュラー全員のインタビューは計2時間にも渡って終了した。
「朱音。少し話さないか」
『…うん。あたしもそう思ってた』
鈴城は藍、帝光は真ちゃんに少しだけ抜けることを伝えると、あたしと征ちゃんは人が来なさそうな場所、生徒会室に歩いて行った。