第9章 あっという間に…
~9.あっという間に~
夏の全中から早半年。季節はまた春を迎える準備をしていた。全中を最後に汐音先輩たち3年は引退。先輩方にはたくさん迷惑をかけた。2年のあたしが出しゃばって、たくさん不愉快な思いをさせたことか。けれど、先輩たちはあたしに何も文句をつけずに着いてきてくれた。引退式の時、あたしが主将でよかったと言ってくれた。先輩たちともう一緒にバスケが出来ないのは寂しいけど、大好きな先輩たちには自分の選んだ道を堂々と進んでほしい。後ろのあたしたちを気にすることも無く、自分のペースで、自分のためだけに。そんな思いを伝える日が今日の卒業式。
先生「送辞。生徒会長、若槻朱音」
『はい』
あたしは送辞を読み上げるべく、教壇に続く階段をゆっくりと登る。そしてマイクの前に立つ。卒業生と在校生が見守る中、ゆっくりと送辞の言葉を口にした。
『…。最後に、これは私個人としての言葉です。卒業生の皆さん、ご卒業おめでとうございます。先輩方の最後の1年間、生徒会長が私という不甲斐ないものであったことを、心より謝罪します。特に学園祭では、帝城祭では鈴城の皆はもちろん、帝光の皆さんにも支えられてどうにか完成しました。最後には私は倒れてしまって何も出来ていません。体育祭も、鈴城だけで行った結果、皆さんに楽しんでもらえたかどうかというのも、不安で仕方ありません』
先輩「そんなことないよ!」
先輩「すっげー楽しかったぞ!」
先輩方からの温かい言葉が胸に響く。涙をぐっとこらえ、あたしは言葉を続けた。
『ありがとうございます。もし学園祭が成功したと言ってもらえるのであれば、それは鈴城中全員のおかげです。私はこの鈴城中の生徒であることに誇りを持っています。鈴城中の生徒で良かったと心から言えます。そしてそれは先輩方にもそうであってほしいと願います。3年間という短い間でしたが、一生の宝である友達に沢山出会えたと思います。たくさん喧嘩もしたと思います。けど喧嘩の数だけ仲直りしたと思います。そうやって絆は深まっていくはずです。その絆を、その繋がりを大事にしてください。そしてその大切な仲間と助け合って、これからの道を歩み続けてください』
先輩の中には、涙を流している人もいる。あたしの言葉では伝えきれない、大切な何かを感じ取ってくれるといい、そういう思いであたしは言葉を繋ぐ。