第8章 全中で
違う。そうじゃない、そうじゃないのに。
「いや、朱音っち?赤司っちが言ったことはそういう意味じゃなくって…」
藍「そうだよ、朱音!今のは…」
『ううん、赤司君は嘘は言わないよ。皆も分かってるでしょ。あたしのことは気にしなくていいからさ。あ、涼君たちもこの呼び方嫌だったら…』
「嫌じゃねぇーし!」
『!…ありがとう、あっ君』
どうして。どうして朱音は僕の話を聞いてくれないんだ。確かに僕は嘘は言わない。だが今回は話が違う。何より僕は朱音に向けて言ったわけじゃない。
「朱音。話がある」
『…うん』
綾「!…えー?何何?私も聞きたい!」
『えっと…いいかな?赤司君』
いいわけないじゃないか。何故君は僕の気持ちを理解してくれようとしないんだ。僕はこんなにも朱音を好きだというのに。
「…分かった。片岡にも後で言うつもりだったからな。単刀直入に言う。征ちゃん、という呼び名は、朱音にだけ呼んでもらいたい。これは僕が朱音からもらった大切な名前だ。朱音以外が使うことは許さない」
片岡を見ると、彼女は怯えたように僕の腕から離れた。次に朱音を見ると、びっくりしたような表情をしていた。
『…ありがとう、征ちゃん。そんな風に思ってもらえて嬉しい…。ありがとう』
ホッと息をつくと、帝光、鈴城の奴らから良かったね、なんて声をかけられた。それにしても、片岡綾。彼女のせいでこんな目にあった。今は直接朱音とテツヤに手を出すような真似はしないようだが、場合によっては僕が手を回さなければならないかもな。