第8章 全中で
綾はふぅっと溜息をつくと、あたしとテツ君の頭を軽く叩いた。
綾「二人とも、顔を上げて?あの時のことを今ぐちゃぐちゃ言っても何も始まらないでしょ?それに、まだ試合に出れるほど回復してないとは言え、もう練習は出来るくらい自由に動くんだよ!朱音とは敵同士になっちゃったけど、また一緒のコートに立てるんだからさ」
『綾…綾ー!』
あたしは綾に抱き着いて、泣いた。中学に上がり携帯を持つようになってから、お母さんに教えてもらった綾の連絡先。メールや電話はたまにやっていたけど、やっぱり久しぶりに感じた綾の良い香りと温かさは、あたしの涙腺をいとも容易く破壊した。
綾「主将のくせに皆の前で泣いてるんじゃないの。ほら、泣き止みなさい」
綾がポケットからハンカチを差し出してくれる。綾の優しさは相変わらずだった。
「片岡っちー!かっこいいッス!可愛い顔してめっちゃ男前ッス!」
凜子「それ喜んでいい言葉なの!?でも確かにかっこいい!」
藍「さすが朱音が親友って呼ぶだけのことはある!」
「トラックに引かれてまでも黒子を助けたこと、怪我をしてまでも戻ってきたこと、これらのことは敬意に値するのだよ」
涼君の言葉を皮切りに、帝光の皆も鈴城の皆も綾を褒める。親友があたしの大好きな人たちに認められたことは純粋に嬉しかった。だから余計に気付いてしまったかもしれない。眉間に皺を寄せながらずっと綾を見ている、征ちゃんの姿が。