第8章 全中で
綾「私の足、トラックに引かれちゃった。治すには、すぐに手術しなきゃいけないんだって。だから…」
綾の言いたいことは分かった。そしてあたしも痛感した。綾とはもうバスケは出来ない。親友の綾の命が護られたことは凄く嬉しかったし、何より神様に感謝した。だけど、大好きな綾と大好きなバスケがもう出来ないなんて…
『…手術すれば、治るんでしょ?だったらまだ…!』
綾「手術して、リハビリを頑張れば速くて1年で歩けるようになるんだって。けど、バスケが出来るようになるにはもっとかかるんだって。それは何年後かもしれないし、何十年後かもしれない」
まだ子供だったあたしは、とにかくテツ君を恨んだ。大好きな綾から、大事なバスケを奪ったテツ君。彼があの時、あそこを通らなければこんなことにはならなかった、と。だけど綾はそんなあたしを見越して、ニッコリと笑う。
綾「朱音、黒子君を攻めちゃだめだよ。勝手に助けたのは私だし、私だって諦めたわけじゃないから」
『…え?』
綾「私、福岡に行くよ。福岡には、足のリハビリを専門に行っているプロがいるんだって。その人に、私の足を治してもらってくる」
『東京にはプロはいないの?…遠くに行っちゃうの?』
綾「東京にもいるよ。けど、福岡の先生の方が凄いんだって。もう決めたんだ。早く治して、早く朱音とまた一緒にバスケがしたいから」
綾はしっかりとした瞳であたしを捉えた。そんな綾を見ると何も言えず、分かったとしか伝えられなかった。
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『それから数日後には綾は福岡に行っちゃって、あたしは東京に残った。テツ君とはその年に同じクラスになったんだ』
「あの時、僕は片岡さんにお礼を言えませんでした。だから朱音さんに伝えてもらったんです。けどやっぱり僕の口から僕の言葉できちんと言いたいです。片岡さん、あの時は本当にありがとうございました。今僕がこうしてバスケを続けられているのは、片岡さんのおかげです」
テツ君は深く深く綾に頭を下げる。そして、あたしも。
『綾、あたしからも本当にありがとう。そしてごめんなさい。あの時あたしが気づいていれば綾は…』