第8章 全中で
その時に意識を失ったらしいあたしは、目が覚めた時には病院にいた。ベッドの横にはお父さんとお母さん、それにお兄ちゃんが心配そうに横に座っていた。
父「朱音!良かった…無事だったか」
母「朱音っ…朱音ー!心配したのよ!」
兄「ったく…あんまびびらせんなよ…」
『ごめんなさい…!それより綾は!?綾は大丈夫なんだよね!?黒子君…あの男の子は!?』
母「…男の子は大丈夫よ。擦り傷だけで済んだわ」
あたしは安堵の息を漏らす。テツ君とはまだ話したこともないけど、テツ君の頑張っている姿を見るのが大好きだったあたしは、テツ君が無事だと分かって心底ホッとした。だけどすぐに不安が押し寄せる。比べものにならないぐらいの不安が。
『…綾は?綾は無事なんでしょ?ねえお母さん!綾に会わせてよ!お父さん!何か言ってよ!』
兄「落ち着け朱音!綾ちゃんは無事だ!ちゃんと生きてる!」
お兄ちゃんの言葉に心にどっしりとのしかかっていた不安が消えていくのを感じた。綾は無事だったんだ。良かった。だけど…何?何でそんな辛そうな顔をしてるの?お母さんもお父さんも、お兄ちゃんまで…まだ子供ながらもあたしは理解出来た。綾の身に何かが起きたことを。
あたしはベッドから飛び降りると病院特融の匂いが漂う廊下を走った。看護師さんに何回も注意を受けたけど、気にも留めず走った。ナースステーションに行き、綾の病室を尋ねる。そしてその部屋までもひたすらに走った。そして"片岡綾"と書かれた部屋の前まで来た。扉は空いていて、病室のベッドに座っている綾と目が合った。気を遣ってくれたのか、おばさんとおじさんは席を外した。
綾「無事だったんだね、朱音。倒れたって聞いたから心配だったんだよ?」
『綾…あたしは大丈夫。それより綾は…』
綾は悲しそうに笑うと、足にかかっていた布団をはぎ、両足をあたしに見せた。綾の細いながらもしっかりと筋肉のついた綺麗な両足は、重そうなギプスと何重にも巻かれた包帯で覆われていた。