第8章 全中で
綾「家までそんなに遠くも無いし、走って帰ろうよ!遅くなるとお母さんたちも心配しちゃうし」
『そうだね!じゃあいっくよー!』
あたしたちは暫く無言で走った。雨が冷たい。体の芯から冷えていくのが分かった。家まであと半分ってとこまで走って、綾の休憩しようという一言で屋根のある何かのお店の前で雨宿りをした。そして息を整えながら、スポーツバックの中に入れていたタオルで体を拭く。
『雨、止まないね』
綾「そうだねー。ってあれ?あれって黒子君?」
『え?どれ?』
テツ君のことは既に知っていたけど、当時のあたしにはテツ君を見つけるスキルは無かった。…今も自信は無いけど。それでも綾はテツ君を見つけた。
綾「おーい!くーろーこーくーん!って、あれ?聞こえないのかな」
『綾…今は雨だし聞こえないよ。それに本当に黒子君本当にいるの?』
綾「えー?朱音まだ見えないの?ほらあそこに…って黒子君!?」
『ちょ、綾!?』
綾はテツ君の名前を叫ぶと慌てたように走って行った。綾は好奇心が旺盛だった。だから今回もいつものことだと思い、あたしは置き去りにされた綾の荷物も抱え、まだ止まない雨の中に片足を踏み入れようとした。
「「「「「きゃーっ!」」」」」
煩いくらいの悲鳴と、それをもかき消してしまうようなキキーッというブレーキ音が響いた。そして直に遠くから女の子が!とか、男の子もいるぞ!という大人の声が聞こえてくる。それと同時に、あたしの額から雫が伝わる。雨ではなく、冷や汗が。荷物をそこに捨て置き、人だかりに向かって全力で走った。大丈夫、綾じゃないと自分に言い聞かせながらも、嫌な予感が頭から離れなかった。何とか人だかりをかき分けて進むと、道路に横たわっているテツ君と、血を流して同じように道路に横になっている綾の姿があった。