第8章 全中で
コートの中央に両チームが揃う。そして予想通り白河さんがあたしを睨んでくる。
白河「逃げたのね!?あんたのそういう人を見下した態度も気に食わないのよ!…いいわ、あんたが出てくる頃にはもう取り返しのつかないことになってるから。そこで後悔しているといいわ。私を見縊った罰よ」
あたしは盛大に溜息をついて見せた。それを見かねて、隣にいた茉実と藍が苦笑しながら心配してくれた。
茉実「大変な人に目を付けられたね、朱音も」
藍「全くね。朱音だけじゃなくて茉実も下げてでも勝てるって思っての判断なのに。どれだけ自分のことを過大評価してるのかな」
『過大評価してるわけじゃないと思うよ。けど白河さん以上に凜子たちも成長してるし、言い方は悪いけど桜蘭は去年より明らかに戦力ダウンしてる。ま、出なくてもいいんだけどさ、これ以上白河さんの機嫌を損ねるわけにもいかないし、少しは出るよ。それに…嫌な予感もするしね』
茉実・藍「…嫌な予感?」
あたしはギャラリーにいる集団に目を向ける。それにつられて茉実と藍も同じ場所を見る。そこには試合にも茉実たちにも目を向けずに、あたしに向かって一直線に視線を合わせてくる5人がいた。
茉実「…あれ、誰?また帝光のファンの逆恨みとか?」
藍「あれは確か…福岡代表の海山(みやま)中学校。三年だけで構成されたチームのはずなんだけど…彼女たちは試合には出ていなかったはず…」
『その3年はスタメンじゃないと思うよ。様子見、かな』
あたしの言葉に茉実と藍は頭にはてなを浮かべた。今は試合に集中!と言うと、しぶしぶながらも凜子たちの姿に声援を送った。
試合はもう一方的だった。スコアは87対42。思ったより得点が伸びなかったのは白河さんの力だろう。それでも負けはしない。それぐらいに皆は強くなったのだ。そろそろかな、と思い茉実と一緒にアップを始める。ギャラリーに目を向けると、相変わらず見つけやすい帝光の皆と目が合った。あたしが笑うと、彼らは安心したように何かを言ってくれた。この歓声の中でははっきりと声は届かない。だけどあたしには聞こえた。頑張れ、と。最後に海山中の方を一瞬だけ視界に入れ、メンバーチェンジを告げた。