第7章 文化祭という名の…
大丈夫、理屈は分かってるんだ。後はあたしが出来るかどうかにかかっている。うう、出来るかどうかじゃない、やるんだ。
『はぁっ…はぁっ…』
「かなり息が上がっているようだな。もう降参か?」
『はぁっ…まだまだ!…はぁっ…これからだよ!』
かと言っても時間が無い。今は第4Qで残り3分。点差は10点ビハインド。茉実たちのおかげで少しは縮まったが、それでも6点の壁は大きかった。
「「「「「朱音(っち)(ちん)(さん)…」」」」」
息が苦しい。胸が痛い。集中できない。全身がだるい。人の体をこんな短時間で変えれるわけは無かった。それでもあたしは諦めない。みんながまだ諦めてないんだ、あたしだけが諦めるわけにはいかない。
もう何十回目かのマッチアップ。あたしがOF、征ちゃんがDF。これ以上点差を離してしまえば、時間的にももう追いつけない。最後のチャンスだった。
「「「「「「「朱音ー!」」」」」」
皆の声が聞こえた。その瞬間、何かが吹っ切れた気がした。そして気が付くと征ちゃんは後ろにいた。そしてそのままダンクシュート。周りからは歓声が上がる。自分では何が起きたか分からなった。とにかく今、凄く気持ちがいい。今まであんなに煩かった心臓が静かになった。周りの音も何も聞こえない。全ての神経が研ぎ澄まされている気分だ。
「…まさか…入ったのか、ゾーンに…」
ゾーン。余計な思考感情が全てなくなりプレイに没頭する。ただの集中を超えた極限の集中状態。選手の持っている力を最大限日引き出すことが出来る反面、トップアスリートでも偶発的にしか経験できない、稀有な現象である。練習に練習を重ねた者だけがその扉の前に立つことを許され、それでもなお気まぐれにしか開くことはない。
征ちゃんの顔を一通の汗が流れたのが見えた。