第7章 文化祭という名の…
第3Q開始を告げるブザーが鳴る。大ちゃんはとりあえず優希に任せる。司令塔である征ちゃんを止めなければ勝ち目は無い。そして征ちゃんにボールが渡る。本日初めての1on1。只ならぬ雰囲気を感じたのかギャラリーも静まり返る。あたしは集中力を高め、征ちゃんと対峙した。
征ちゃんが動き出したと同時にあたしもついていく。なかなか振り切れない様子の征ちゃん。だが征ちゃんは一気に動きを速めたと思うと、あたしの隣を簡単に抜けて行った。そしてあたしは、床に座っていた。
審判「レフェリータイム!」
審判の人が尻餅をついたあたしの元にやって来た。大丈夫かと尋ねられるが、あたしは何処も怪我をしていない。ただ、足元が不安定になったかと思うと、いつの間にかこうなっていた。どこも怪我をしていません、大丈夫ですと伝えるとゲームは再開した。
聞いたことがある。アンクルブレイク。高い技術を持つ高速ドリブラーが相手の足を崩し転倒させる。相手の軸足に重心が乗った瞬間に切り返した時のみ起こせる現象だ。だけど口で言えるほど簡単なものじゃない。
そして再び向かい合う。今度はあたしがOFだ。征ちゃんの動きをじっくりと見る。そしてチャンスを待つ。今だと思いドリブルで抜こうとした時、征ちゃんはあたしの手に収まったままのボールを弾いた。そしてそのまま無駄な動きは無くレイアップを決められた。
審判「鈴城中、TOです」
何が起こったのか理解できなくて、放心状態になっていたようだ。藍がTOを取ってくれた。
藍「ごめん、朱音!勝手にTO使っちゃって…」
『ううん、助かった。おかげで冷静になれたよ』
トリプルスレット。バスケにおける最も基本となる姿勢だ。シュート、パス、ドリブル。全ての動作に備えた状態。逆に言えばどの動作も必ずそこから始まるってこと。どんなに早く動いても、次の動作の直前には必ずその姿勢に入っている。だけどそれだけ分かっていても次の動作が分かってなければ意味がない。もしかして征ちゃんの能力は…
藍の情報でも、征ちゃんの能力については謎だった。ただ、天帝の眼を持つという情報だけ。でもその能力があたしの考えるものだったら…
ゲームが開始され、あたしの前に征ちゃんが立ちふさがる。