第9章 あなたとりんね 【転生現パロ】
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その日の夜、私はベッドに仰向けになり、やりきれない気持ちを昇華しようとしていた。
なんであの人は私を知ってるの?
どうして必死に力を込めたの?
その、こちらまで胸が締まってしまうような表情の意味は。
私は大きくため息をつき、飢えた脳に酸素を取り込む。
「うう~モヤモヤする!小さい頃会ってたとか?」
いや、あの人は、かなり確信を込めた声で名前を呼んだのだ。
当然成長したし、メイクだって覚えたのに、久々に会う私を見抜けるとは思えない。
頭の中を検索しても徒労に終わる。
私は掴まれた手首を撫で、昼の出来事を回想する。
『私の名前はハンジ・ゾエ。…よろしくね、』
「……手、温かかったな」
哀願ともとれる張りつめた表情。真意はなんなのだろうか。
ぼんやりしたまばたきにも複雑な思考にも疲れ、私はつい目を閉じてしまう。
もう眠ろう。人の心など考えてもわからないのだ。
健気に回る換気扇の音に耳を澄ませていると、パッと枕元で何かが光り、軽快な電子音が私の心を揺らした。
私は勢いよく起き上がり、緑色の通知が残るスマートフォンを見つめる。
どうしよう。
不思議なほど跳ねる心臓が痛い。じわじわと頭が覚醒していく。
「びっくりしてるだけ、だよね」
誰に向けるでもない問いかけが虚しく響いた。
液晶を押すと、瞬時にトーク画面に切り替わる。
『今日は本当にごめん』
『お詫びにお昼ごちそうしたいんだけどどうかな』
思いの外丁寧な文体に驚く。
今日の騒ぎからして、もっと勢いよく距離を詰めてくるかと思っていた。
一瞬、二人きりになっていいものかという考えがよぎる。
しかしそれを打ち消すほどに、彼女の行動や言葉の理由を知りたいと思ってしまった。
このままにしてはいけない。彼女と会わなければいけない。
……一体この衝動はなんなのだろうか。
『いえ!じゃあ明日はどうですか?早すぎますか』
気づけば私はキーボードを打っていた。
しゅぽ、と間の抜けた音とともに、すぐに返信がくる。
『明日は私も休みだし丁度良かった。何か食べたいものはある?』
夢をみているような変な気分だ。
私は『お任せします』とだけ返し、再度ベッドに寝転がる。
この高揚の理由も、あなたに聞けばわかるのでしょうか。