第6章 平穏さにこそ潜む
葵が帰った後、澤子は逸巳の部屋で一人でぼんやりしている瑞稀に声を掛けた。
「瑞稀さん」
端正で男性らしい顔立ち。
頭も良いし家柄も申し分無い。
同い歳位の女の子が憧れる気持ちは分かる。
「葵ちゃん泣いて帰っちゃったけど」
「……もう少し優しくしてあげたら?」
「なんで?」
「なんでって……可哀想じゃないの」
「それさあ、止めたら?」
瑞稀が苛々したように髪を掻き上げる。
「私?」
「逸巳もそうだけど、あんたらって変なとこで気使い過ぎだと思うけど。 大体好きでもない相手に優しくしてどうすんの? んで勘違いされたら、あんたが責任取ってくれんの?」
「……気を使ってる訳じゃないけど」
「特にあんたなんか隙あり過ぎ。 あの前の彼氏でまだ懲りてないのか?」
「そんな事、あなたに言われる筋合い無いわ」
「そう?」
突然、瑞稀が澤子の手首を掴んで後ろ向きに壁に押し付けた。
「ちょ……っ」
「ほら、こんな羽目になったらどうすんの?」
「……ふざけないで」
瑞稀に背中で両手首を固定されて動けない。
「瑞稀さん、いい加減にしないと怒るわよ」
「いいよ、別に」
瑞稀は澤子のスカートに手を入れ、太腿を撫でる。
「ちょっ……と」
髪の隙間から白いうなじが透けている。
瑞稀はぺろ、とそこを舐めた。
「!」
背筋がぞくりとし、澤子は身動ぎした。
「や、やめて!」
瑞稀が澤子の手を離すと、澤子は慌てて彼と距離を取った。
「自分も守れないのに人試すような事止めたら? 」
試す……?
「……またふざけ過ぎたかな」
明らかに動揺している澤子から瑞稀が視線を逸らす。
「悪い。 帰る」
瑞稀はぽん、と澤子の頭を軽く叩いて部屋を出て行った。
瑞稀の舌が触れた首が熱い。
「試してるのはそっちでしょう……」
瑞稀が居なくなった部屋で、首元を押さえて澤子は座り込んだ。