第6章 平穏さにこそ潜む
やっと笑いの余韻が収まった瑞稀はぐるりと周りを見渡し家の様子を観察した。
ごく普通の家。
家具や装飾はシンプルで雑多な感じもしない。
「崎元、ここに二人で住んでんの?」
「うん。 あ、逸巳でいいですよ。 うちは親は五年前に他界してるんです」
「そうなのか」
「二人で住むには少し広いんですけどね。 手放すのは寂しいって姉さんが」
五年前というと、澤子は今の瑞稀と同い年だ。
まだ少年の逸巳と二人でここで暮らして来たのか。
てっきりごく普通の暖かな家庭で真っ当に育った兄弟かと思っていた。
なんか俺こないだ澤子に失礼な事言ったな。
先程も彼女の言う通り、少しやり過ぎたかも知れない。
しかし……儚げな印象の彼女がああいう手合いの男に言い寄られるのは分かるが、それならもっと毅然としていても良さそうなものだが。
「瑞稀さん、あまり食べないね?」
「口に合わなかったかなあ」
「いや、美味いよ。 ただ色々栄養指導されてて」
瑞稀は適当な言い訳で誤魔化した。
普通の食事も食べれない事もない。
しかしスカスカのスポンジか何かを口にしているような感じがする。
「細いですもんねえ、瑞稀さん」
「だけど脂肪も付けないと体力もたないわよ」
澤子は瑞稀の皿にひょいひょいと料理を乗せる。
スポンジ……もとい唐揚げの山が出来た。
案外世話焼きでもあるらしい。