第6章 平穏さにこそ潜む
「さっきは済まなかった」
「え、瑞稀さん、なあに? 突然」
瑞稀が台所で洗い物をしている澤子に声を掛けた。
「首突っ込んで勝手やり過ぎたかなって」
「ああ、ふふ。 確かに」
「でも……びっくりしたけど、結局また助けて貰っちゃったし、ありがとう」
「いや、礼を言われるようなことは」
「ううん、あの後……カフェで瑞稀さんに言われて、きちんとお断りしようって思ったの。 よく分からないけどあの時嬉しかった、私」
───最初も思ったけど、綺麗な髪だな。
そこから時々チラリと形の良い唇や白い首筋が覗く。
高すぎない軽やかな声。
ずっと見ていたいような気がする。
「逸巳もね、あの子人当たりは凄くいいけど、ここに人を連れてくるなんて事はなかったのよ。 余程瑞稀さんが好きなのね」
「あんたは迷惑じゃない?」
「え? 私も好きよ」
澤子はふんわりと微笑みながら言った。
家の奥の方から逸巳が瑞稀を呼ぶ声がする。
「瑞稀さーん! ギター弾くよ」
「後からお茶持っていくね」
……つまり、色々無自覚なんだこの女は。
瑞稀は少しだけ、ほんの少しだけだが三木に同情した。