第6章 平穏さにこそ潜む
「だから、もうそういう事はどうでもいいんです」
「澤子、誰これ」
瑞稀は二人に近付いて、澤子の腕を掴んでいる男の腕に手を掛けた。
「誰だ、お前」
「み、瑞稀さん?」
「俺? 澤子の彼氏。 この手離してくれる?」
「そん、っ痛!!」
腕には手三里という急所があるが、瑞稀がそこに指を入れて捻るようにすると相手の顔が苦痛で歪み、簡単に澤子から身体が離れた。
三木が腕を押さえながら二人を睨みつける。
「……そういう事か。 馬鹿にしやがって」
「馬鹿にはしてないが、まあそういう事なんで」
「随分若そうだけど、この女とヤろうと思ってるなら無駄だぞ」
「は?」
「お高く止まってるからな。 口説いても時間の無駄だ」
控え目に言わなくても下衆だな、こいつ。
瑞稀は呆れてため息をついた。
「三木さん、いい加減に」
「んー、それはおかしいな」
何か言おうと反論しかける澤子を制して瑞稀が後ろから澤子を抱き寄せる。
「俺達毎晩仲良くやってるんだけど……あんた本当に澤子と付き合ってたの? ていうか、あんたの勘違いじゃないの?」
「え……なっ!?」
「姉さん、最近ストーカーに困ってるってこの人? あ、僕彼女の弟ですがコンバンハー」
呆然としている三木の前に逸巳も現れた。
同じくぽかんとしているであろう澤子の顔が見えないように三木の死角に澤子を自分の身体で隠すと、瑞希は笑いを含んだ声で彼女に囁きかけた。
『もう少し我慢して』
『……これ、ど、どういう』
「まあ、何にしろあんたレベルじゃそんな気起こんないんだろうな。 もう行こうぜ澤子」
「ガキの癖に……俺はあの飯田商事の課長だぞ!」
「はあ?知らね……ああ、そういえば俺小田って言うんだけど、親父の孫請けの会社がそんな名前だっけ。 じゃ」
「え小田って……あの小田グループの!?」
へたり込む三木を無視して瑞稀が澤子の肩を抱いたまま家に入る。
「あんた今度見掛けたら通報するから」
そんな三木ににっこりと笑いかけた逸巳が彼らの後に続いてドアが閉まった。