第6章 平穏さにこそ潜む
ふと、瑞稀は顔を上げた。
前方に覚えのある男の声がしたからだ。
「……何か聞こえないか?」
「え?」
やがて人影が見えて来、逸巳が目を凝らしてそちらを凝視した。
「あれ、姉さんと……」
「……多分、こないだの花屋にいた男かな」
「よく見えますね。 てかしつこいなー!あいつ」
「ちょっと待て。 お前はいちいち身内のそういうのに出張るのか」
「瑞稀さんは知らないんですよ。 姉さんの男運の悪さ」
「まあ待てって。 様子を見てからにしよう」
瑞稀と逸巳はもう少し彼らに近付いて様子を伺う事にした。
確かに澤子と三木が家の前で何か言い合っている。
「電話でも言ったとおり、もうお付き合いする気はないんです」
「そんなのあんまり一方的じゃないか!?」
「そう言われても、気持ちが無いんです」
「そもそもあんなの付き合ってたうちに入らないだろう。 指一本触れさせなかった癖に」
「それは最初にお話ししてたとおり私はそういう事は」
「俺が他の女と遊ぶ羽目になったのも、そっちが散々勿体ぶるからだろう」
そこで、様子を見ていた逸巳が呆れた声で呟いた。
『……控え目に言って下衆ですね』
『まあ……同感』
『埒が明かないようだから僕行きます』
『だから身内が行っても……わかった、俺が行く』
『瑞稀さん?』