第5章 遅れ咲きの茎に輝けるただ一輪

「……よく分かんないけど」

「え？」

「あんたその男の事本当に好きなのか？」

「私？」

「さっきその……彼氏？ といた時も思ったけど、何かそうは見えなくて。 今も普通はもっと落ち着かないもんじゃないの？」

「……そんな事」

「それに、ちゃんと話したら？ そりゃ向こうの方が悪いんだろうけど、曖昧なままはっきりしないのも不誠実じゃないのか」

「瑞稀さん……」

逸巳が困ったようにちら、と澤子を見た。
おそらく逸巳もそう感じているんだろう。
澤子は何も言えず、赤くなって俯いた。

「それとも何か、あんたにそう出来ない理由でもあるの？」
「瑞稀さん、言い過ぎです」

澤子の身体が思わずびく、と反応する。

この人、鋭い。
でも、言ってる事は正しい。

その上こんなまだ初対面の、歳下の人に言われるなんて。
……恥ずかしい。

「姉さん……」

逸巳が心配そうに私に声を掛けてくる。
何か言いたいがどれも嘘臭くて言葉が出てこない。

「ごめん、言い過ぎた」

「俺さっきも言ったけど、よく分かんないから。 あんまり本気にしないで」

「い、いえ……」

「帰るよ。 楽しかった、ありがとう」
「瑞稀さん」

「また道場で、崎元。 なんか困った事でもあったら連絡して」

「……はい、ありがとうございました」

テーブルに小銭を置いて瑞稀が席を立ち店を出る。
それにつられるように澤子も立ち上がった。

「姉さん？」

「待って下さい」