第5章 遅れ咲きの茎に輝けるただ一輪
「ふーん、前の彼氏ねえ」
「まだはっきりとは別れてないけど」
「でもそんなの確定でしょ。 姉さん浮気されたんだし」
「だけど……」
流れで取り敢えずお茶でも飲もう、という話になり澤子達は今カフェに居る。
瑞稀は所在無さげにコーヒーを飲んでいた。
身内の話だし、それはそうだろう。
澤子は早く話を切り上げたかったが、逸巳がなかなかそうさせてくれない。
「……なんか話込み入ってるし、俺はこの辺で」
「あ、すみません! 良いんです」
立ち上がりかけた瑞稀に二人の声が重なった。
「ごめんなさい、こちらの話で。 ええと、小田瑞稀さん、でしたよね。 弟がいつもお世話になってます。 私は崎元澤子っていいます」
澤子は深々と瑞稀にお辞儀をした。
「本当すみません。 僕の姉です。 小田さんには道場でお世話になってて、俺より歳下なのに師範を」
「そうなんですか。 そんなにお若いとは思わなかったです」
なるほど、だから彼、とても落ち着いて見えたのね。
でもそんなに若いんだったら私なんかおばさんかしら。
澤子は少し胸にちくりとするものを感じた。
「そういえば、二人も知り合いだったみたいだけど、どこで?」
「前に電車で助けてもらったのよ」
「ああ、そうか。 小田さん、姉さんの事もありがとうございます」
逸巳は事を得たという風に瑞稀に礼を言った。
大した事はない、と言いつつ瑞稀が手を振る。