第5章 遅れ咲きの茎に輝けるただ一輪
まだ陽射しの強い夕方、瑞稀が大学から帰る途中で言い争う複数の男の声が聞こえた。
「格好つけやがって」
「部外者はとっとと失せろ」
この辺は余り人気のない道で野次馬も居ない。
瑞稀が声のする方向に向かうと、何処かで知った顔が見えた。
確か道場で、何とかカツミ…、もとい、逸巳とか言ったかな。
二人の若い男がその逸巳に怒声を浴びせていて、彼の後ろには真っ青な顔をして怯えている様子の若い女がいた。
「僕に気にしないで、行って」
女は逸巳を気にしつつその場を離れる。
男に絡まれてる女を助けて巻き込まれてるって感じか?
何となく状況は読めたが、やり合いになったとして特に逸巳に手助けが必要とも思えない。
以前瑞稀が彼と手合わせした時何となくだが、逸巳は優男風の外見にも関わらず闘争心の強い男だと思った。
見たところ相手は素人の様だし、逸巳の実力からいっても負ける事は有り得ない。
そもそも身長が185センチはありそうな骨太の体型の逸巳と、チャラチャラした雰囲気の華奢な男が対峙する様は滑稽にさえ見える。