第5章 遅れ咲きの茎に輝けるただ一輪
「うむ、やはり日本はいい」
高雄は上機嫌でトーストと大きなオムレツ、アーティチョークとズッキーニのフライといったボリュームたっぷりの朝食を堪能していた。
対して瑞稀はパックに入った血液とコーヒーのみだ。
「瑞稀、二週間の間鍛錬は欠かしてなかったか?」
「問題ない。 そっちこそ、今回は随分長い出張だったな」
「こちらと違って、向こうでは色々な付き合いがあるのでね。 お前もそのうち分かるだろう。 だが、そんな知識は後からでいい。 基礎学力を備え精神力を鍛えれば、後は自ずと身に付いてくる。 それもあるが、お前の場合、まずはきちんと体を作って欲しいものだがね」
どちらかというと細身の瑞稀に対し、高雄は堂々とした体躯をしていた。
「……あんたは帰ってきた早々よく食うな。 夜中に騒がれるこっちの身にもなれ」
高雄はズッキーニを口に運びながら楽しげに言う。
「まあ、久しぶりの上物だ。 二、三日は我慢しろ」
地下でいつも何をしてるのかは知らないが、……いや知りたくもないが、高雄は気に入った女だと何日も時間を掛けて楽しむ癖があった。
瑞稀はそれは高雄の単なる下らない性癖かと思っていたが。
「たまに『それ』に時間を掛けるのは何故なんだ?」
「……お前はもう少し人の話を聞きなさい。 いつも言っているが、私たちは彼女達に苦痛を与えずに深い快楽のみを与える事が出来る」
「どういう意味だ、それは」
「私たちの体液には強い催淫効果がある。 これは合理的に雌を喰うシステムでもある訳だが、それが効きづらい者も中にはいる。 まあ、まだ食欲も意識したことの無いお前には関係無いかも知れないが」
体液と食欲。
成程、あの時美和を抱かなくて正解だったようだ。
食欲を意識するとまだ何かあるのか、と聞きたかったが止めた。
この親父の事だからあの事がバレたらまた俺の部屋に裸の女でも連れ込むに違いない。