第1章 小田瑞稀
「おかえりなさいませ。 お食事の用意が出来ております」
年嵩の執事が瑞稀を出迎える。
彼のブルーグレーの虚ろな瞳からはいつも表情が読めない。
「……食欲ない」
「いけません。 私が旦那様に叱られてしまいます」
瑞稀は溜息をついて部屋のドアを開けた。
天井から伸びた鎖に裸の女が吊るされていた。
びくっとした様子で身体を固くしたその女は猿ぐつわを噛まされ、怯えた目で瑞稀を見ている。
「では、また片付けに参ります」
「ワズ、俺は食わない」
「……ご随意に」
鞄を置きソファに腰掛け、瑞稀は目の前の女を眺める。
肉感的で美しい女だ。
艶のある黒髪と同じ色の長い睫毛が涙で濡れている。
女が拘束された手首の鎖をガチャガチャ音を立てて身動ぎをする度に、ふるふると豊かな乳房が揺れる。
「可哀想にな」
瑞稀は無表情で呟く。
「俺が食わなくてもあんたはどうせ親父に食われる。 せめてその前に少しは楽しみたいか?」
手を伸ばし女の乳房をぐにぐにと揉む。
女は激しくかぶりを振った。
「そうか」
瑞稀はソファから腰を上げて部屋のドアを開ける。
その前に親父に会わないと。
無駄だろうが。
「……面倒くせえな」