第3章 健全な精神は健全な肉体に宿りかし
それにしても少し遅くなってしまった。
澤子の弟、逸巳は心配性な所がある。
逸巳は澤子の行動を詮索したりはしないが、遅くなるなら連絡してとわざわざ駅まで迎えに来たりちょっとした買い物でも姉を夜道を歩かせる事を嫌う。
おそらく澤子がまだ学生の時のあの事件以来だろう。
彼女を乱暴した犯人は未だに捕まっていない。
あの時の事を思い出すと澤子の頭には霞がかかったようになる。
次いで背筋がぞくりとし、目覚めた時の身体中の激痛を思い出す。
精神的なショックで彼女は暫く逸巳以外の男性とは口を聞くことも出来なかった。
投薬やカウンセリング等の治療を経て普通の社会生活を送ることは出来るようになったが、今も異性とそういう行為をするのは怖く自分が性的な対象として見られる事にも嫌悪する時があった。
……だけどもう私も二十四になる。
逸巳にこれ以上心配を掛けない為にも、きちんとお付き合い出来るといいんだけど。