第3章 健全な精神は健全な肉体に宿りかし
人が降り大分まばらになった車内で、男性は澤子に告げた。
「俺はここで降りるけど」
見ると彼女の目の前の吊革が空いている。
「あ! はい、大丈夫です」
それにも関わらず、澤子は彼にずっと掴まっていたのに気付き慌てて手を離した。
「こないだ」
「え?」
「こないだは悪かった。 変に思っただろ?」
花束の事だろうか。
……確かに突然の事で変には思ったけど。
「いえ、そんな」
「そっか。 良かった」
男性はふっと笑う。
「じゃあ」
……笑った。
出会ってからずっと無表情だったけど彼は笑うとなんというか……
当たり前の事に澤子は驚いていた。
「…ありがとうございました」
彼の後ろ姿を見送る。
逸巳の方が背が高いようだが彼には余分な脂肪が無く、すっと引き締まった体型をしていた。
──ああいう人もいるんだな。
ろうそくの火にぽっと灯りが点ったような、澤子は温かい気分でホームを降りた。