第14章 余章 ―― 夜話
「はぁ…」
翌日20時、私は男の指定された場所に立っていた。
小切手はどうやら本物らしい。
どちらにしろ返すんなら会わなきゃダメか。
そう思って男に電話をすると、時間と場所だけ言って切られた。
電話なんかで要件だけ言う、その辺は私と同じタイプらしい。
青葉とかにはよく怒られるんだけど。
「こんばんは」
昨日聞いた声がして、目を上げるとその男が立っていた。
「ん、こんばんは」
「ふふ」
「なに?」
「いいね、その格好」
私は普通にジーンズとパーカーに、スニーカーという出で立ちだった。
「これ外したら100点かな」
男は私の背中に手を回し、髪を纏めてるゴムを外した。
髪、腰まであるからうっとおしいんだけど。
「綺麗だ。 名前は?」
「遥。 て、私は今日は」
「俺は高雄。 遥、初デート楽しもう」
「は…」
その男、高雄は私の手首を掴んで夜の繁華街に向った。
「遥、なんか旨い店教えて」
「何食べたいの?」
「魚かな」
「んじゃ大学の近くの居酒屋でいい?」
「いいね」
そういう訳で私たちは私の勝手知ったるいつもの店でビールとししゃもをつついている。
「普通デートって男側が決めるもんじゃないの?」
「例えば?」
「どっか…ホテルのレストランとか?」
「行きたいの?」
「行きたくない」
っていうかこの格好だし。
「相手の行きたいとこでいいんじゃないの」
高雄は相変わらずにこにこ笑っている。
「あ、そうだこれ」
私は昨日の小切手をテーブルに置いた。
「要らないよ、これ」
「なんで」
「貰う理由がない、ってか私高雄と付き合う気ない」
「彼氏でもいるの?」
「いない、けど、要らない」
「どちらにしろ君は昨日俺と約束した。 大人なんだから自分の言葉には責任を持つべきだ」
「だって金で買われるとか…」
「いきなり襲ったりしないし、…じゃあこうしよう。 俺に飽きたら返してくれればいい。 もし君の体が俺のものになってもそれで終わり」
私は目の前の男を見た。
誰が見てもいい男だと思う。
変わってるけど悪い人でもない。
まぁ、最近退屈だったし。
この人女慣れしてそうだし、私みたいな男っ気の無いタイプはたまにはこういうのと関わってみるのもいいかも知れない。