第14章 余章 ―― 夜話
世間のそういうのの相場っていくらなんだろ。
「…5万とか?」
「馬鹿言うな。 君程の女性の処女が5万の訳ないだろ」
頭大丈夫かな、この人。
「何で分かる……てか、今時処女なんか有難るのも珍しいね」
「まぁ確かに、良い男に磨かれた女性が至上だろう」
「はあ」
「何故か分かるか」
「いえ?」
「共通点はどちらも『面倒である』事だ」
…良くわからない。
不可解な表情をしている私を目の前に、その男はにこにこと微笑んでいる。
危ない人間ではなさそうだが。
というか、身なりといい物腰といい、こんなチープな店に来るようなタイプに見えないんだけど。
「500万じゃ安いかな?」
「へ?」
「ただし俺の事が気に食わなきゃその気にならなくて構わない 」
「…意味がよくわからないんだけど」
「週に1日…いや2日、俺と付き合って欲しい」
「いいよ。 でも、早く帰った方がいいよお客さん。 飲み過ぎなようだ」
「…それじゃ決まりで。 明日また会って色々話そう。 夜に連絡をくれ」
男は紙にサラサラと何かを書いてテーブルに置いた。
「ありがとうございました。 おやすみなさい」
「おやすみ」
男が立ち上がった。
背が高い男だ。
身長172センチの私が少し見上げる位。
「…変わったのが色々いるなあ」
呟きながら男が帰った後のカウンターを片付けていると、メモ用紙に綺麗な字の電話番号の走り書きと生まれて初めて見たが、0がいっぱい並んだ小切手が残されていた。
「遥、どおーしたの? なんか変な顔」
「…これは元からだ」
翌日、大学にて。
私の女友達である青葉はやーだ遥!とか言いながら、けらけら笑っている。
今、私のバッグには先程男が残していった小切手とメモが入っている。
あれ、本物なのかな。
なんか私、めんどくさい事に巻き込まれた?