第14章 余章 ―― 夜話
「大人とか子供とかは僕には分からない」
「あたしを束縛しないで」
「そんなんじゃない」
「してるじゃない」
「だって全部美和さんが傷付く事だ。 僕は嫌だ」
美和はびくっと体を強ばらせた。
逸巳の強くて静かな目。
「なんであたしにそんなに構うの?」
「気になるから」
「あたしの事好きなの?」
「美和さんは嫌いな相手と寝るの?」
美和の身体からふっと力が抜けた。
「分かった。 別れる。 ていうか、どうせそろそろそうしようと思ってたし」
「良かった」
逸巳が美和の手を離す。
「……逸巳さんて割と我儘だよね」
「そう、なのかな?」
「する?」
美和の言葉に逸巳は少し考えるように間をおいた。
「僕としたいの?」
「……別にそれ程でもないけど」
美和はぷい、と顔を背ける。
「じゃ帰る」
「え?」
踵を返す逸巳に美和は思いがけず慌てる。
だってあたし達は。
「…逸巳さん?」
戸口で振り返った逸巳は美和を見詰めた。
「嘘ばかり言ってると、いつかそれが本当になる。 僕はもう美和さんとそんな風に付き合いたくない」
ドアがぱたん、と静かに閉じられた。