第14章 余章 ―― 夜話
金曜の夜、ルームサービスを適当に頼んでソファに腰掛けた。
だけど何だかさっき会ってから、逸巳の様子が少しおかしい。
「逸巳さん、なんかあった?」
「……美和さん、月曜に男性とホテルから出て来た所、偶然見掛けたんだけど」
「それがなに?」
逸巳は言いづらそうに口を開く。
「あの男、止めた方がいいよ」
「……なぜ?」
「同じ会社……の関連なんだけど、彼、結婚してる」
てっきりヤキモチでも焼かれるかと思ったら。
美和はふっと笑った。
「そんな事、知ってる」
「え?」
「お互い分かってるし、逸巳さんには関係ない」
「駄目だよ」
珍しく強い口調で逸巳が言うので思わずカチンとして美和が言い返す。
「口出ししないで。 そもそも彼とは寝てるだけだし、これと大して変わりない」
「それでもやっちゃいけない事だ」
「偽善者」
「僕の事をなんて言ってくれてもいい。 だけど彼とは別れて」
「……あなたってもう少し大人だと思ってた」
逸巳は帰ろうとする美和の腕を掴む。
振りほどこうとして逸巳の頬を殴る勢いで手を振り上げるが、それも直前で手首を掴まれた。
「殴るのも駄目」
強く掴まれてる訳でも怒鳴られてる訳でもないが、美和は逸巳を怖いと思った。