• テキストサイズ

Mirror【R18】

第14章 余章 ―― 夜話


「美和、悪い。 金曜は用事が出来た」
「ふーん、お家の事情?」
「まあね」

あたしの裸の肩を抱いている男。
いかにもモテそうな顔立ちのその目は満足気に天井を見ている。

彼には既に妻子がありお互い仕事も忙しい為、週に一度会ってこうするだけの関係が、もう二年も続いている。
最初から合意の元。

有名企業の広報課に勤めている彼は頭の回転が早く話も上手い。
こういう男は大概セックスも悪くない。

「いいけど、なんか最近面倒になって来ちゃった」
「おい、美和」

あたしは何だか覚めた気分になってベッドから下りる。

「俺が女として一番好きなのは美和だよ」

彼があたしの胸に手をやる。
その左手の薬指に指輪。
これ、絶対外さないのよね、この男。

『女として』
あたしはそれで充分。
その筈だったけど。


ホテルから出てタクシーに乗って帰る。

「……つまんないな」

美和は小さく呟いてスマホに逸巳の名前を見付ける。

逸巳さん。

一度会っただけの彼に再会したのは偶然だった。

街なかで、目立ってる二人がいると思ったら昔少し関係があった瑞稀と、隣にやたらガタイの良い逸巳がいた。

瑞稀は掴みどころが無く、麻薬みたいな男だった。
今から思うと綺麗な別れ方をしたお陰でなんのわだかまりも無い。
あれは瑞稀の優しさだったのだろう。

逸巳はその体に似合わず温和な顔付きの男だったが、どこか野性的な雄を感じさせた。


何年か経ってそんな逸巳と再会して、美和は逸巳と寝た。
逸巳は優しい男だった。

ただし、その対象は誰にでも。
二人でいても困ってる人を見掛けたら迷わず手を差し伸べる。


もし、あたしだけに優しくしろと言ったら彼はそうするんだろうか。

だけどそこまでの付き合いでもないし、あたしは優しいだけの男なんて望んでない。

それでも結婚をしている男と関係を持ち、たまにぽっかりと空いた穴を埋める為に、逸巳と会う。


「金曜空いてる?」

少しの間。

「少し仕事で遅くなるけどいい?」
「いいよ、じゃついでにホテルでご飯しよ」
「分かった」

逸巳にLINEを送って美和は車内で目を閉じた。




/ 187ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp