第14章 余章 ―― 夜話
夕方逸巳が戻って、ドア越しに澤子に声を掛ける。
「今は無理……」
「瑞稀さん言ってたけど、あの人とは男友達みたいな感じだったって」
澤子からは返事が無い。
……瑞稀さんの言う通り、これはどうしようもないな。
せめてもう少し姉さんが男慣れしてれば良かったんだけど。
逸巳はため息をついた。
翌日になって澤子はのろのろとベッドから起き出した。
瑞稀さんに……謝らなきゃ。
昨日帰っちゃった事とか。
でも、会いたくない。
「姉さん、瑞稀さん」
「……居ないっていって」
「居るし」
瑞稀が普通にドアを開けて部屋にずかずかと入って来た。
「瑞稀さん……」
クッションで顔を隠しながら澤子がベッドの隅に後ずさり、瑞稀は端に腰掛けた。
「なんか言う事ある?」
「昨日、は先に帰ってごめんね」
「うん、いいよ。 また行こう」
「他には?」
「あの人……親しかったの?」
「ノーコメント」
「なんで……」
「寝ただけって、それだけ。 他に何かやましい所がある訳じゃない」
「……今は?」
「会ったの二年ぶり位」
「そう」
「あとは?」
「………」
「なんて顔してんだ」
瑞稀は澤子を抱き寄せた。
「目が腫れてる」
澤子の瞼に瑞稀の唇が触れた。
瑞稀は優しい。
そんなのは分かっている。